モネは登米の森林組合で働きながら、気象予報士の勉強を始めたものの、根本的なところから勉強を始めないといけなかったために大苦戦。
そこで助け舟を出したのが、同じ森林組合の診療所に医師として訪問していた菅波先生でした。
菅波先生は、業務が終わった夕方や夜に、家庭教師のように1対1で基本的なところから、モネに丁寧に教えます。
そんな菅波先生の姿を見た視聴者の方の中には、こんな疑問をツイートしていた方が多く見られました。
「なんで菅波先生はそんなに気象のことを教えられるの?」
「いっそ菅波先生が気象予報士試験を受験したら、モネよりも先に合格するのでは?」
確かにそう思いますよね。では、これらの疑問について考えてみたいと思います。
菅波先生がモネに気象学を教えられる理由
一番の基礎は中学の理科の教科書から
菅波先生はドラマの中で、「なぜ雲ができるのか」「なぜ雨が降るのか」といった根本的なところから、モネにしっかり教えていました。
それは、これらの内容が中学校までの理科の教科書にも書いてあることだからです。
ひとつひとつの現象は基本的で、順序立てて考えてみれば理解はできるのですが、では我々は小学生や中学生の頃に習ったところをちゃんと覚えているかと言われると、細部はあやふやな部分も多いですよね。
でも菅波先生は、医者になるくらいなので、子供の頃から理科は得意だったはず。モネと一緒に中学の理科の教科書を見ながら、昔覚えた記憶を蘇らせて、モネに教えていたのでしょう。
なお自分も先日、中学校の理科の教科書に久々に目を通したのですが、気象学の基礎的な部分が思いの外網羅されていて、最高の入門書だと改めて実感しました。菅波先生がモネに教科書をプレゼントしたのも、今なら納得できます。
高校の理科選択の現状
そこにもうひとつ、日本の理系の大学受験制度の問題も絡んできます。
高校の理科の科目には、物理・化学・生物・地学の4科目があります。ところが気象学が含まれている地学の授業は、理系の学生はほとんど履修することはありません。
なぜならば、大学入試で理系学部を受験する場合、大学側は共通テストやセンター試験での理科2科目を、「物理+化学」か「化学+生物」のどちらかの組み合わせを必須としていることが圧倒的に多いからなのです。
菅波先生も受験した医学部も、一部の大学を除いて受験者はほぼこの2択になっていて、しかも数学な得意な受験者が多いので「物理+化学」を選択する受験者が多いのです。きっと菅波先生も物化選択だったのでしょう。
逆に高校で地学を履修すると、却って進路が狭まってしまいます。
少子化が進んだ最近では、地学の授業自体がなかったり地学の先生がいなかったりする学校も良く聞きます。また地学は理系科目なのに文系の方が履修者が多い学校もあったりします。
個人的には、このいびつな状況は、これはこれで大いに問題があると思うのですが、受験が絡んでいる以上、今後もなかなか変わらないでしょうね…。
気象予報士試験は物理履修者に有利
一方で、気象予報士試験の基礎的な問題のうち、風の問題は高校物理の力学の分野、雲や雨の問題は高校物理の熱力学の分野や高校化学の物質化学の分野の知識が必要になってきます。
だから菅波先生も、高校までの物理や化学の知識で、かなり教えられる部分が多かったのです。
地学は中学までの知識で、基本的なところはなんとかなりますしね。
ちなみに自分も、大学の工学部を受験したときは「物理+化学」の両方が必修でした。その経験が、○十年後の気象予報士試験に大きく味方してくれるとは…。勉強を始めるまでは分からなかったです。
菅波先生は気象予報士試験に合格できるのか?
菅波先生でも合格は難しい理由
では、実際に菅波先生は気象予報士試験に合格できるのかというと、自分はそうは思いません。
気象予報士試験の学科一般の試験では、高校までの理科の知識をベースとして、更に気象学の専門的な知識が必要になってきます。
実際にドラマでも、モネが仙台のスクールに受講してからみるみるうちに実力がついて、逆にモネが菅波先生にエマグラムの状態曲線の読み方を教えて、先生があたふたしていた場面が象徴的でした。
また学科専門の試験では、観測や予報の手法を学ぶ必要があり、こちらは高校までの知識とは別に覚えなくてはいけないことが数多く存在します。
さらに実技試験では、これらの知識を踏まえた上で、短時間のうちに何枚もの天気図を読み取って、今どんな状況なのか、今度どんな状況になるのかを論述させる問題が出てきます。
問題を解くスピードや、文章での表現力も重要ですし、最近は典型的な気象現象だけでなく、深く理解していないと解けない問題も多くなってきました。
これらはきちんと時間をとって対策しないと、さすがに菅波先生でも難しいでしょう。
もし菅波先生が本気で勉強したとしたら?
気象予報士試験は、医学部に合格できるくらい地頭のある人なら、本気で勉強して試験対策に取り組めば、一発合格は難しくても、数回受験すれば合格できると思います。自分でも合格できましたし、文系の方もたくさん合格している試験ですから。
ただ菅波先生は、1週間ごとの東京と登米の往復生活に加えて、研修医から医者になったばかりで日々勉強が必要なはず。大学病院に所属しているので、論文も執筆しなくてはいけないでしょう。なので、気象予報士試験の専門的な勉強までは、きっと手が回らなかったと思います。
社会人での受験は、仕事や時間との戦いでもあるのです。
まとめ
菅波先生は、高校までの知識で教えられる部分については、モネに辛抱強く付き合って懇切丁寧に教えてました。
しかしそれでも、気象予報士試験の合格ラインに達するには、まだまだ多くの壁を乗り越える必要があったのも、また確かです。
それでも、モネに辛抱強く気象の勉強を教えていた菅波先生。この登米での日々を通して、少しずつ先生の中で、色々なことが変わっていったのでしょう。
また、たとえ実現する可能性が低くても、菅波先生が実際に気象予報士になって、裏方ではなく気象キャスターとして指し棒を持ちながら気象解説する姿も、それはそれで見てみたかった気がします。